教授が考える大学院生活成功法 パート6 ポスドクとは?利点は?
- Masahiro Yamada
- 2020年1月30日
- 読了時間: 5分
更新日:3月11日

今回はポスドクをした方が良いのか、という議論です。
まず、博士を修了して教授として研究を始めるというのはあなたのラボを持ちあなたの研究をしなさい、という事。いきなりそのレベルまでポンっと放り出される前に、ポスドクと言って、他のラボで研究者として働いて、ラボの研究室長から規模の大きい研究の仕方を学ぶという制度です。もう一つの考えかたは博士課程では一つの事をずっと勉強します。ですので、違う分野を勉強することによって自分の幅を広げたり、知識や技術を深めたりするものです。
ポスドクの否定的意見:
まず出てくるのがただの安く雇えるPh.D.の奴隷制度だ、という意見があります。確かに、同じPh.D.でも教授と違って格安の給料で働くことになります。実際にポスドクとうたってこの制度を利用して安く研究者を雇おうという感じの場所はあります。
ポスドクの肯定的意見:
私はポスドクを2つ経験して感じたことはとても良い経験だったと思います。ただ、あなたのキャリアのゴールが教える事がメインであるなら、できるだけ早く教授職に就く努力をするべきだと思います。あくまで研究がメインでやりたい人のみにお勧めします。
というのを踏まえて話すと、今まで会ってきた教授の中でポスドク経験のあるないではやはり研究の知識や技術はレベルが違うなと感じます。それも当たり前。ポスドクはただ研究をし、一日の全てを自分の成長だけに費やせるのです。教授は講義の準備、教えて、採点して、ミーティングに出て、生徒をアドバイスして、サービスしてって、研究する時間や新しいことを学ぶ時間なんてありません。ですから自然のことなんです。
あなたの夢が大きな有名大学で研究をする、のであれば、ポスドクはほぼ今の時代必須。エリート大学にいているなら少し話は変わりますが、私の様な一般大学で有名大学に行くのは何らかの力が働かない限り、ポスドクなしではほぼ無理でしょう。仕事の応募を見ても、ほとんどの場合「最低2年のポスドク経験」とか書いています。つまり、大きい大学に行くことがあなたにとっての出世街道であれば、ポスドク経験は絶対にした方が良いでしょう。
ポスドクの生活
では、ポスドクってどんな感じか。私は一つ目のポスドクはバイオメカニクスの分野で、アメリカ軍の軍人の脳震盪の影響をどのように体の動きから客観的に測定できるか、という課題をスマホの機能を利用して体の動きを測定する研究でした。私はスマホの機能に問題があれば解決し、東海岸の基地と西海岸の基地にスマホや必要な資材を送り、連絡を取り合う。基地で収集されたデータを私が解析し、統計をして、結果を報告発表する、というものでした。研究に必要な管理上のスキル、他の人との連携、など様々な経験ができたし、大きな規模の研究を経験できました。統計計算のメインの研究者として雇われていたため毎日統計の勉強とバイオメカニクス、脳震盪の勉強ばかりしていました。こういった勉強する自由時間はいっぱいあって、自分で成長してくって感じでした。究極の自由の学びでしたね。
それと比べ2つ目のポスドクはもっと統率されていて、2度目の博士課程、と言った感じでした。年始に計画プレゼンがあり、何を目的に何を勉強し、何を生産するのか、を細かく書き、プレゼンして、その内容を研究者にボロカス言われる。そして、研究発表や、論文評論の会議などでボロカス言われる。週に3つほどの研究に関するミーティング、研究者によるセミナーなど、本当に「教育」という感じでした。
一番違ったのは競争と生産でした。半年に一度全研究者の前でポスドクが一人一人どんな事を学び、目標を達成したのか、何本論文を出したか、研究費をどれくらい獲ったかという報告プレゼンがあります。ほかのポスドクも10人ほどいて、みんな有名大学出身でかなり違う環境でした。博士課程と違い給料を貰ってるので結果を求められました。私は努力家と思っていましたが、まぁみんなあほみたいに働く。研究の内容は主に脳卒中患者のリハビリという応用的な脳科学の分野で、自分はTMSという機材を一人で扱えるようになれたし、加圧トレーニングと脳卒中という新しい分野の研究にも視野を広げました。
博士課程は意識や集中、認知などといった分野だったので2つとも全く違う分野でした。 私は修士も博士も別に有名大学ではないので、エリート集団が集う場所で働いた事によって仕事の選択肢が一気に増えました。元々エリート大学出身の人ならそういった「学歴」という飾りは必要ないですが、私にとってそれは持っていなかった「道具」でしたので、そこで得た経験はもちろんですが、「箔」が自分の就職に影響を与えたことはあると思います。エリート大学や有名教授の下で卒業した人にはその影響の大きさに気付かないでしょう。しかし、そうでない自分は肌感覚でわかります。
私が信じることは、大学院生にとって一番大事なのは中身で知性や知識、技術です。それに代わる大事なものはありません。それに揺らぎはありません。しかし、就職活動の際、これを覚えてください。
雇う側はあなたの事を知りません。ですから、あなたという存在や能力だけを見ているんではありません。
雇う側は学歴や誰の生徒か(指導教官)という、一見必要のない「かざり」も、もちろん無意識かも知れませんが、見ています。
考えてみてください。無名の誰も知らない大学のA君とハーバード大学出身で有名教授が指導教官のB君。全く同じ能力だったらどちらが雇われやすいですか?これは馬鹿げているし、バイアスで人を判断することはよくないことです。しかし、人は目に見えない「能力」より、目に見えるものに頼る癖があるのです。雇う側は「失敗」するリスクを一番恐れている訳ですから、当たり前と言えば当たり前なんです。
理想郷の話ではなく、現実的な力学を考えるのがキャリアデザインです。ですから、自分はどうだ、何ができる、という信念は大事ですが、現実問題、他人は自分をこう見る、という客観的な目も持ち合わせ計画的勉学に勤しみましょう。
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