教授が考える大学院生活成功法 パート4 大学院時代に勉強以外で身に付けるべき能力
- Masahiro Yamada
- 2020年1月10日
- 読了時間: 6分
更新日:2月23日

前回博士課程で何を勉強すれば良いかについて話しましたが、今回は勉強以外に必要で身に付けるべき能力について話したいと思います。
おさらいですが、教授職の評価は教育(授業などを教える)、研究、サービスの3つのカテゴリーから成ります。つまりこれらをできるという証明ができれば就職で優位に立つのです。
さらに気を付けるべき点は、そこから更に10年20年後の話です。アメリカの大学では管理職は教授が上がっていくパターンが殆どです。経営は経営のプロに任せるのが一番と個人的には思いますが、全く畑違いの学校経営や研究施設経営の中核は元々殆どは研究者だったり教授だったりするのです。ですので、キーワードになって来るのが、リーダーシップ。これがないと将来性が無いと思われます。いづれにしても出世すると人の上に立つので、この要素を延ばすのがとても大事です。
今回は大学院生に一番身近であろう、授業の講義と研究で何にどれだけエネルギーを注ぐべきか、について考えます。まず、博士課程の時、あなたの実務がTA かRAかでやるべき事は変わってきます。
教える経験:
あなたがTAの場合はあなたは授業を教える事がメインなのでその経験はもう既に得たも同然だし、履歴書にもTeaching Experience として書けるので問題ありません。だから一番考える事はどれだけ研究の経験を積めるかが鍵になってきます。あなたがRAの場合はその逆になります。毎日研究ばかりやっているので、いかに教えるという経験を積めるかによってバランスの良い経験ができます。
ここで、細かく分けると、TAは学校によって責任がかなり変わります。大学によっては(a) 修士レベルの授業を教えさせてくれるところもあれば、(b) 学士過程の生徒の講義を任される学校もあります。しかし、場所によっては(c) ずっとTA(メインの講師としては教えれない)場合もあります。
(c)の場合、1年半(3学期)か2年を終えてまだその状態だと危機感を持たないといけません。アシスタントとメインの講師では、する経験が全く違うのし履歴書にも与える印象も全く違います。だから何か「リード」する経験を積むべきです。
例えば、指導教官に話して、一学期だけでもメインとして講義を教えさせてもらえるか話すとか、ラボだけでもメインでできないか話す、とか、何かきっかけを作って「自分がプランして、教えて、採点した」経験を作る必要があります。こういうのは突然できる話ではなく、一年前から次年度の予定が決まっているので、早め早めに話すことが大事です。その他の方法として、夏学期に講義を教えるチャンスがあるか、などが考えられます。
あなたがRAの場合、メインで講師として働くのは時間的になかなか無理です。そうなると、方法はゲストスピーカーとして大学の講義で教える経験を作るとか、大学で教える技術を上げるセミナーなどに出席するとか、夏学期に講義を持てるように話すとか、何か教える経験をしましょう。
一つ大事なのは、ただ待っててもチャンスは来ないので指導教官や学部長と仲良くなってあなたは将来教えたい、だからこういう経験がしたい、というのを普段から知ってもらうことがとても大事になります。
研究の経験:
(心理学、脳科学、スポーツサイエンス、医学、リハビリ系の博士課程の生徒に当てはまります)一番価値があるのが研究費獲得のために何かを書いた経験です。これ以上に評価される経験は無いでしょう。これが自分の研究であっても指導教官の研究の研究費の執筆を手伝ったとしても価値はあります。博士課程の生徒が研究費を取るのは非常に困難です。アメリカ人であれば、NIHやNSFの博士課程生徒用の研究費やトレーニンググラントというのがあったりしますが、国民であることが条件ですので、日本人には無理です。
データ収集も将来、人に教えれる程度は最低でき経験しておくべきです。つまり0から100までの研究を一通りするのはとても大事です。研究の全ての工程が好きという人はいないでしょう。私の場合はデータ収集はあまり好きではありません。しかし、実際、私は自分で500~600人のデータ収集は学生時代にやったので、他の研究者の数倍やった上で好きじゃないと言っています。
そして、データ収集の経験は非常に大事だと感じています。データ収集を人に頼っていると生身の被験者を見る機会がなくなり「現場感覚」が薄れます。教える時も色々な経験や失敗を教える事が出来ません。データばかりに触れて生身の人間に触れていない人ほど信用のならない研究者はいません。もしあなたが健康、衛生、医学などの分野で研究したいのであれば絶対に現場の経験はするべきです。患者に触れて、話して、生の患者の苦労や生活を垣間見てください。データ解析も一通りできる方が良いでしょう。例えば人を扱う研究であれば、3Dカメラの解析、心電図、fMRI, EEG, EMGなど分野によって色々あると思いますが、ある程度一人でできないと、何も一人でできなくなります。将来生徒に教える事もできなくなります。これは大きなハンデとなります。
しかし、あなたがデータ解析を好きでない限り必要以上に時間を費やす事もありません。例えば、EMGのデータ処理・解析するのにMATLABが必要なのでプログラミングを勉強する。でも出来上がっているコードがあれば何とか自分でできる程度で良いのです。後は将来engineer 学部の人とコラボレーションして頼めばいいのです。でも全く出来ないと、もしその人が忙しかったりすると、あなたの研究は止まります。プログラミングが好きであれば極めたら良いでしょう。技術者として必ず必要されます。これは統計にも同じことが言えます。多くの人が苦手としている分野(数学系・プログラミング系)は皆避けるので必ず引っ張りだこになります。
しかし、今逆の事を言いました。「あまり時間を費やす必要がない」と。何故か。
理由は2つあります。一つは技術は日々進歩して、今できるあなたの技術は将来必要な保証がない事です。例として昔使っていたfMRIのデータ解析は今簡単にできるし、解析方法が古すぎて今は全く違う方法を使っています。無駄とは言いませんが、そこで投資した数か月、数年はあまり効率の良い時間の使い方ではありません。
もう一つは、あなたは技術者としてPh.D. になる訳ではないからです。理論を構築し改革的で斬新なアイデアを生み出し、知を発展させる。後に自分のラボを持ち、チームをリードしていく。これがあなたの将来の仕事で、そうでないと成功しません。このプログラミング言語を使えます、この統計ができます、というのは結局技術者であり、雇われ側であり、チームのリーダーではなく、一員なのです。つまり替えがきく存在になりかねないという事です。上に登って行く人というのは新しい研究のアイディアを出したり、理論を発展させたり、研究費を獲得して、指針を示しチームを引っ張っていける。これが一番必要とされ、変えの効かない存在になります。ですので、目に見える技術よりも目に見えない知性や知識を鍛える事に集中するべきなのです。
哲学的な事から抜けると、指導教官の研究をやって、助手として言われたことをやって、その中で学んでいくのも大事ですが、博士論文までに最低一つは自分のアイデアで自分でリードする研究が出来る環境が理想です。指導教官と関係性をしっかり作って自分の将来に上手く投資できている環境を作りましょう。
さて、今回は、研究と教える経験の時間の使い方について話しました。次はその他の経験を話して行きます。
Komen